はじめに:
当院の内視鏡センターでは、胃カメラと大腸カメラを行っています。いつも迅速かつ正確で苦痛の少ない内視鏡検査を心がけておりますので、みなさんに安心して受けていただける検査を実践しています。
内視鏡検査は原則として予約制で行っていますが、急激なみぞおちの痛み(心窩部痛)などで食事をとっていない方には、緊急で胃カメラを施行する場合もあります(できないこともあります)。また、突然の下腹部痛や下血の方にも、浣腸ののち緊急で大腸カメラを施行することもあります。
当センターでの内視鏡検査件数は年々増加傾向で、検診の胃カメラや大腸ポリープ切除の件数も増えています。
胃カメラ:
細径内視鏡(5㎜)を用いて鼻(経鼻)から検査を行っています。鼻から入らない方には口(経口)から行います。胃カメラでは、鼻腔、咽頭、食道、胃、十二指腸を観察します。検査はおよそ5~6分です。癌検査(組織生検)やピロリ菌チェック(ウレアーゼテスト)のために胃組織を採取する場合には、さらに1~2分余計にかかります。
検査前に絶食(朝食抜き、水分は可)が必要です。定期内服薬がある方は、予約時に当日朝の内服について指示をします。来院後に処置室で鼻(経口の場合には口)に局所麻酔を行いますが、局所麻酔薬でアレルギーがある方にはできません。その時は静脈麻酔などの別の麻酔を行います。以前、胃カメラが苦しかった方にはこの静脈麻酔を併用して行うこともあります。静脈麻酔を行う方は麻酔用の点滴ラインを挿入します。
局所麻酔後に内視鏡室で「胃カメラを楽に受ける4カ条」を説明してから検査を行います。検査中はリラックスしていただくことを心がけ、検査の進行状況や内視鏡所見について説明しながら行います。聞いていただくだけで、返事はいりません。終了後は検査後の食事や注意事項を聞いていただいた後、診察まで待合室で待機していただきます。静脈麻酔を行った方は拮抗薬を投与し、処置室で15~30分ベッドで安静にしてから検査後の注意事項を聞いて待合室へ移動します。待機後、診察室で画像を供覧しながら内視鏡所見について詳しく説明します。なお、注意事項については説明用紙もお渡しします。
大腸カメラ:
大腸専用の内視鏡を用いて肛門から検査を行います。検査は挿入に5~15分、抜去および観察に約10分です。ポリープを切除する場合には部位や大きさ、個数にもよりますがおよそ10~15分余計にかかります。
検査前3日間は繊維を控えた食事を摂取していただきます。当日は朝から絶食で、2時間をかけて下剤1.8Lを飲み、便をきれいにしてから来院します。下剤内服後は、水分だけは摂取可能です。検査は原則として静脈麻酔下で行います。来院後に処置室で検査着に着替えた後、静脈麻酔用の点滴ラインを挿入します。
内視鏡室で大腸の解剖や検査中やっていただくこと説明してから麻酔薬を投与し、少し眠ったような状態で検査を始めます。はじめは左下(左側臥位)の体位で開始し、そのあと仰向け(仰臥位)になります。終了後は拮抗薬を投与し、処置室で15~30分ベッドで安静にしてから検査後の注意事項を聞いて待合室へ移動します。待機後、診察室で画像を供覧しながら内視鏡所見について詳しく説明します。注意事項については説明用紙をお渡ししますが、ポリープ切除を受けた方には1週間いくつかの制限事項(過重労働、過度な運動、長風呂・サウナ、飲酒、香辛料摂取、旅行など)があります。
まとめ:
以上が当院の内視鏡センターで行っている胃カメラと大腸カメラについての概要です。
検査の大まかな流れやどんなことをするのかが大体おわかりいただけたと思います。ただ、検査を受けたことのない方や以前苦しかった方はやはり不安で検査を受けることを躊躇してしまうことと思います。私自身も35年前、当時の私の指導医で現在大学の教授をされている先生に胃カメラをしていただいたとき(当時は9.8mm経口内視鏡)、大変苦しい思いをしました。その時、「私が患者さんに内視鏡をするときは、苦しくない検査をしてあげられるようにしよう」と心に決めました。以来、診断はもちろんのこと、常に苦痛の少ない迅速・丁寧な内視鏡検査を心がけ実践しています。ですから、もし内視鏡検査について不安や心配なことがありましたら、どうぞ遠慮せずにお気軽にご相談下さい。
「私がやって苦しかったら、世界中のどの先生がやっても苦しいはず」という最善を尽くす気持ちで、日々検査に臨んでいます。
おわりに:
胃癌は、日本ではまだまだ諸外国に比べて患者数の多い消化器癌の1つです。また、食道癌や大腸癌も、近年、増加傾向になっています。このことからも、胃カメラ検査、大腸カメラ検査を受けることをお勧めします。
出典:国立がん研究センターがん対策情報センター
内視鏡センター 清水喜徳
ピロリ菌のお話
はじめに:
ピロリ菌とは、胃に生息する萎縮性胃炎、胃潰瘍、胃癌の発生原因となる細菌のことです。鞭毛というひげを有し、幼少期の低胃酸で免疫能が低い時期に井戸水などを摂取することによって感染するとされています(成人になってからは基本的に感染することはありません)。胃内ではアンモニア(アルカリ性)を産生して自分の身を胃酸から守っています。1983年オーストラリアの病理医ウォレンと研修医マーシャルによって発見され、彼らはこのピロリ菌の功績で2005年にノーベル賞を受賞しました。
疫学:
日本では、2000年初めにはおよそ7000万人いたといわれるピロリ菌保有者が2013年から全保菌者の除菌療法(ピロリ菌を駆除する治療)が保険適応となったことにより、現在では約3000万人にまで減少したと言われています。また、保菌者の多くは60歳以上の高齢者で若年者での保菌者は多くはありませんが、幼少期の井戸水摂取や保菌者の母親から口移しで食事を摂取していた人では感染している可能性は否定できません。
ピロリ菌検査:
検査法には、
①抗体法(採血)
②呼気試験法(試薬を飲んではいた息を採取)
③糞便抗原法(採便)
④尿中抗体法(採尿)
⑤培養法(内視鏡施行時に胃組織を採取し培養)
⑥鏡検法(内視鏡施行時に胃組織を採取し鏡検)
⑦ウレアーゼ法(内視鏡施行時に胃組織を採取し試薬で判定)などがあます。
⑤~⑦は内視鏡で胃組織の採取が必要ですが、①~④は内視鏡を受ける必要はありません。
ただし、除菌療法では内視鏡検査(バリウム検査不可)で胃粘膜の萎縮性胃炎(+癌の併存がないこと)を確認しないと保険適応にはなりませんので、内視鏡をせずにただピロリ菌を調べ(①~④)、陽性なら除菌療法をするということは認められていません。そもそも、除菌療法を受けることができる患者は、まず内視鏡検査を受けて胃粘膜の萎縮性胃炎があったときに引き続いてピロリ菌検査を受け、ピロリ陽性で初めて保険での除菌療法が受けられることになっています。内視鏡検査からピロリ検査および除菌療法は6か月以内に行う必要があります(日本消化器病学会)。あくまでも内視鏡検査→ピロリ菌検査の順番ですが、検診(自費)でピロリ陽性が判明した人では、そのあとに内視鏡検査を行えば保険での除菌療法を受けることが可能です。
除菌療法:
抗菌薬2種類(アモキシシリン、クラリスロマイシン)と制酸薬1種類(PPI(タケキャブ))を7日間内服します。除菌成功率は95~98%と以前に比して高率になりました。除菌不成功例では2次除菌として抗菌薬1剤(クラリスロマイシン)を別の抗菌薬(メトロニダゾール)に変更して再度7日間内服します。ここで、抗菌薬の内服量が多いので、時に薬疹が出現することがあります。その時は、直ちに内服を中止して主治医を再診する必要があります。
除菌後:
除菌療法の最大の目的は胃癌発生の抑制です。ピロリ陽性例での胃癌発癌率は0.4%と言われていますが、除菌療法によってもこの発癌率は1/3には低下するもののゼロにはなりません。したがって、除菌後はわずかですが発生する可能性のある胃癌に対して、定期的に胃のチェックを受けることが必要となります。胃のチェックにはバリウム検査と内視鏡検査がありますが、除菌後の胃のチェックは内視鏡検査で行います。理由は、早期の胃癌は形態的な変化よりも発赤調などの色調変化が主体であるため、バリウム検査ではこれを描出することができないからです。さらに、除菌後10年以上を経過して胃癌が発生した症例もあるため、現時点では定期的に内視鏡検査による胃の経過観察が必要です。検査間隔は1~2年毎と言われており、川口市の胃がん検診内視鏡検査(50歳以上)が2年毎であることから、少なくとも2年に1回は内視鏡検査を受けるようお勧めしています。もちろん、川口市胃がん検診の内視鏡検査でもかまいません。
おわりに:
以上がピロリ菌に関するお話です。これまでのお話から、「なら、ピロリ陰性であれば胃の検査は不要」と思われた方もいるかもしれませんが、これも残念ながら間違っています。胃癌の95%はピロリ陽性者ですが、最近、ピロリ陰性の胃癌が増加しています。多くはありませんがピロリ陰性でも胃癌の発生はあります。したがって、内視鏡検査を受けたことのない方はもとよりピロリ陰性であっても、定期的に内視鏡検査を受けることをお勧めします。また、最近、食道癌も増加傾向となっています。この点からも、ぜひ胃カメラ検査を受けて下さい。
内視鏡センター 清水喜徳